有り難きこと
引越しをすると、暮らしに必要なものを改めてひとつずつ探していかなければなりません。
日常の買い物はあのスーパー、風邪をひいたときは近くの医院…といった感じにです。

そしてそこには「どこで髪を切るか」という、小さなようで大きな問題も含まれています。
他のことと比べて緊急性が低い(どうしてもきょう髪を切らなければならないことは少ない)ので、つい後回しにしてしまいます。
スマホで調べれば候補はいくらでも出てくるけれど、実際に行ってみなければ分からないことも多い。
結局は、美容師さんとの相性や、そのお人柄が決め手になります。
素敵な出会いは滅多になくて、もし出会えたのなら、それは有り難き幸運であり、できるだけ長くお付き合いをしたいものです。
そして仙台で暮らした2010年からの三年間、その幸運が訪れました。
13年後、再び
「ちょうどいい状態は長く続かない」
これも、ここまでの人生で学んだことです。
2012年に転勤で仙台を離なれることになり、また新しい土地で美容室(美容師さん)探しをやり直すことになりました。
それから13年が経ちました。
いくつもの街で暮らし、何軒もの美容室に行き、何人もの美容師さんに髪を切っていただきました。
多くのことがそうであるようにラッキーなこともあったし、そうでないこともありました。
たくさんの出会いと別れの繰り返しの中で、ふと気がついたことがあります。
「季節が二回りすれば、そこは地元と呼んででも良いのではないか?」です。
地元の定義とは何か?
それは「帰る感覚がある」かどうかです。その土地に行って、ただいまー!と思えるか。
仙台は、そのうちの一つで、帰る感覚のある場所です。
東北新幹線の車窓から見える八木山の電波塔は、帰ってきたことを感じさせるランドマークとなっています。
そんな仙台へ、今回あらためて「帰る」きっかけができました。
それは住んでいたときにご縁のあった方々からのお誘いでした。
いうならば、旧知を温める旅です。(あと新規水族館巡りも重要なテーマです)

そして、その過程で思いついたのが、かつての美容師さんに再び髪を切っていただくことでした。
六時間かけて髪を切りに行く
仙台までは、飛行機と新幹線を乗り継いでおよそ五時間。さらに仙台駅から在来線に揺られて一時間。
調べてみると、その美容室は今の自分にとって「人生で一番遠い美容室」になっていました。

けれども、距離や時間は、それほど問題ではありません。
髪を切ることは大義名分であり、本当の目的はその人に会いに行くことだからです。
再会の瞬間、美容室の扉を開けると、13年前と変わらない空気がそこにありました。

ハサミの音、整髪料の香り、取り止めのない会話——かつての仙台での生活を思い出すに十分な仕掛けです。
髪を切り終わり、お店の前でお別れのあいさつを交わすときには涙があふれてしまいそうでした。
髪を切ってもらいながら、「暮らすように旅をし、旅をするように暮らす」という自分の人生の方針(みたいなもの)が、少しだけ形になった気がしました。
心残りは
年齢を重ねるにつれ、弾丸旅行の疲れは以前より少し長引くようになってしまいました。
そこで新しいルールを加えることに。
「片道五時間以上かかる旅は、二泊以上する」
そう決めたうえで、また次の再訪を思い描きます。
1泊の旅程では、時間が足りなくて、できないことが多くあります。
本当はもっと色々なことをお話ししたかったのに…
でも、そんな心残りが次への動機となります。
人生で一番遠い美容室へ。
そこはもう「帰る場所」のひとつになりました。
きょうも、そらのいろを思い出せる1日に
使用機材
歩き旅には小さいカメラは正義です。
コメント